「呼ぶのなら早くしろ。
やらないのなら早く教会へ逃げ込む事だ。
空いている席はあと三つだからな」




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄あぁ、なんて馬鹿な事をしたんだろう。

目の前にはそりゃもう、清々しいまでに崩壊している家のリビング。
そして中央のソファーに長い足を組んで黒いチェーンメイルを着ている男。

なんて嫌な遺伝なんだろう。
よりによって、人生で一、二を争う危ういイベントの中でも一番慎重にしなければならないことを、
時間を一時間も間違えるなんて。

あぁ、お父さん。
わたし、貧乏くじ引いたかも。

「先ほどから顔を青くしたり落ち込んだり大変だな、君は」

わたしの目の前にいる男がやや呆れた風に聞いてくる。

「えぇ、色々な意味で落ち込んでるわ。で、取り敢えず聞いて良いかしら」

「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄こちらも聞きたい事が多々あるが質問を許そう」

「貴方はセイバー? それともキャスター?」

「極端だが、どちらも違う」

「じゃあ、何のクラスのサーヴァントよ」

サーヴァント。

これから冬木町で始まる『聖杯戦争』で七人のマスターと呼ばれる魔術師に使役される使い魔。

『騎士(セイバー)』
『弓兵(アーチャー)』
『槍兵(ランサー)』
『騎乗兵(ライダー)』
『魔術師(キャスター)』
『暗殺者(アサシン)』
『狂戦士(バーサーカー)』

この七つのクラスの使い魔を使役し、七人の魔術師が殺し合う。
そして残った一組がこの冬木の土地に眠る『聖杯』を手に入れられる。

サーヴァントとは先ほども説明した通り、七つの役職があり、同時に七体のサーヴァントが召還される。
それぞれが歴史上で名を馳せた英雄で、これらを『英霊』と呼ぶ。
ただし、英雄全てがサーヴァントに選ばれる訳ではなく、そのランクに合った者が選ばれる
今わたしの目の前にいるサーヴァントもどこかの英雄だろう。

「私はランサーのサーヴァントだ。残念だったな、セイバーでなくて」

へ?
今、なんて言った?

「どうしたんだ、間抜けな顔をして」

「え? いや、そんな素直に教えてくれるとは思わなかったから」

「悪いが、私は君に召還された以上なるべく君の質問にも答えるし、反応もするつもりだが」

「良いの? わたしは貴方のマスターじゃないかもよ?」

「それはない。君も魔術師なら分かるだろう?
今、君の魔力が幾ばくか私に流れている事がその証明だ」

サーヴァントは霊体の為、実体を持たない。
それを具現化させるのがそのマスターの魔力だ。

「それに君のどちらかの手に令呪があるはずだ。
紅い、二股の刻印がね」

左手の甲を見るとくっきりと紅いアザの様なものが出来ていた。
これがサーヴァントを調律させる三回しか使えない『令呪』だ。
これは三回使うと完全に消える。
三回使ってしまうと令呪が使えないのはもちろん、サーヴァントへの命令権も失う。
さらにサーヴァントへの魔力供給も絶たれるのでサーヴァント自身もじきに消える。
しかし、三回までならば小さな『奇跡』を起こせる。
ただしそれにも限界があり、わたしの魔力とそのサーヴァントの魔力が通じる範囲がその限界である。

「結構冴えてるのね」

「なに、これしきの事ならば当然だ」

「そう、取り敢えず上に行きましょう。ここじゃおちおち話もしてられないわ」

「同感だ」

彼が立った瞬間、どがらがっしゃん、と盛大に何かが崩れた音がした。
「これの事は後でなんとか出来る。さぁ、話をしに上に行くのだろう?」

彼はそう言ってすたこらさっさと階段を上がって行った。
……後で絶対修理させてやる。
わたしはそう思いながら階段を上がって行った。




Fate/Another night
First night/始まり




「で、説明してくれるかしら?」

「なるべく答えるように善処しよう」

黒い軽鎧を纏った騎士はわたしを見下ろした。
だが、その視線はわたしを見下しているものではない。多分。

「最初の質問、貴方のランクはランサー、間違いないわね?」

「ああ、これでキャスターに見えるなら眼科に行く事を推奨する」

なんで今呼び出された奴が『眼科』なんて言葉知ってるのよ。

「分かったわ、じゃあ次の質問。貴方、どこの英霊?」

「それは……」

それを聞くと彼は本当に、途端に暗い表情になり俯いてしまった。

「何、どうしたのよ」

「私は……どこの英霊かが分からない」

はい?

「はあぁぁぁっ!? 何よそれ、ふざけるんじゃないわよっ!」

「ふざけてなどいない。生前、騎士を引き連れ戦場を駆けていた事は覚えているが、どうも素性が曖昧だ。
それにな、こうなったのも君の不完全な召還のツケだぞ。
あれのおかげで自らの素性は分からなくなるわ魔力供給も不完全など私がふざけるなと言いたい所だ」

「魔力供給が不完全ってどう言う事よ」

確かにわたしの魔力は彼に流れて行っている。

「不完全な降霊儀式の為に私と君の回路が完全に繋がっていないのだ。
つまり、幾分か漏れ出していると言う事だな」

「マジで?」

「よく意味は分からないが、マジだ」

そんな馬鹿な、と叫ぶのを全身全霊をもって耐えきる。
そんな……切り札が使えない上に魔力供給が不完全!?
全く持って完全にわたしのミスだ。そりゃもう完膚無きまでに、弁解の余地もない程に。

「だがこの供給量だ、すぐに魔力の方の問題は片付くだろう」

「気休め?」

「本当だ」

ともかく過ぎた事をうだうだ言っていてもしょうがない。過去は取り戻せないから過去なのだ。

「まだ色々話たい事もあるけど今日はここまでにしましょう。後は明日。
とにかくわたしは眠いから寝るわ、はい」

ぽいぽい、とわたしは彼の箒とちり取りを投げ渡す。

「む?」

「下の掃除お願い。言う事聞かなかったら令呪使うから」

一拍置いて彼は苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「……了承した。地獄に堕ちろマスター」

そんな捨て台詞と共に下に降りて行く彼を見送った後、わたしは睡魔に襲われた。
あ、言峰に電話すんの忘れてた。
……まぁ、良いか。今日は疲れた、明日電話すれば良いだろう。
程なくしてわたしは夢の世界に旅立った。






NEXT Night











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